大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和41年(う)1422号 判決 1966年12月06日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役五年以上八年以下に処する。

原審における未決勾留日数中四〇日を右刑に算入する。

押収に係るあいくち一振(当庁昭和四一年押四一一号の一)を没収する。

理由

本件控訴の趣意は被告人並に弁護人谷口武彦、和歌山地方検察庁検事中道武次各作成の控訴趣意書記載のとおりであるから各これを引用する。

一、被告人並に弁護人の事実誤認の主張について。

所論にかんがみ記録を精査するに原判示殺人の所為は原判決の挙げる証拠により優にこれを認めることができる。被告人に殺意はなかったとの主張については、≪証拠省略≫、本件犯行に使用したあいくち(昭和四一年押四一一号の一)の大きさ並に形状等を綜合すると、被告人が釣堀店びわこで中曽清に対しお前はどこの者かと執拗に尋ねたことから口論となり同人から手拳で脇腹を突かれ、更に表に出よといわれ、同人が背広上衣を脱ぎ表に出て行く強気な態度を示したことに憤慨するとともに、同人が被告人の友人数多が傍に居るにも拘らず斯様な態度を示すのは畢竟刃物を所持しており、店外で被告人を刺す心算なのかも知れないと考え、この上は機先を制しこれを攻撃するの外なしと決意し、本件あいくちを使用して同人を刺すにおいては同人の死の結果を将来することがあってもやむを得ないものと考え、傍らにいた堀口格から刃渡り一七糎の本件あいくちを借受けこれを使用して同店入口付近でいきなり同人の右大腿部及び左上腕部を各一回突き刺し、因て同人をして右刺創による失血のため死亡するに至らしめたものであることが充分認められるから、被告人に殺意がなかったことは到底認め難く、る述の所論を充分参酌しても右認定に疑を挿む廉を発見できないから所論は採るを得ない。

二、検察官の法令違反の主張について。

所論は、原判決は原判示殺人のさい被告人が法定の除外事由がないのに本件あいくちを所持していたとの公訴事実につき、時間にして僅か二、三分、距離にして僅か五米程度移動したに過ぎない程度の本件所持は銃砲刀剣類所持等取締法三一条の三、一号、三条に所謂所持に該当しないとして無罪の言渡をしたが右は右所持の解釈適用を誤った違法があるというのである。

よって案ずるに銃砲刀剣類所持等取締法三一条の三、一号、三条が銃砲刀剣類の所持を原則的に禁止している趣旨は、主として人に危害を加えるに役立つこの種物件が隠匿、保存されるのを防止しようとするにあることは明らかで従ってその所持は数時間又は数日、数ヶ月という長期のものを通常とすることは勿論であるが、さりとてこれら物件を一時他より借受けてこれを使用して殺傷を行った場合の如き短時間の所持を禁止の趣旨より除外したものとは認められないし、又法が右各条の所持につき何等時間的制約を設けていないことに徴し、苟も、これら物件に対する支配関係の樹立が多少の時間継続するにおいては右各条の所持罪は成立するものと解するを相当とする。これを本件についてみるに、被告人は原判示認定の如く中曽清を刺殺するに至るもやむを得ないと考えて傍にいた堀口格から本件あいくちを借り受けいきなり右中曽の右大腿部及び左上腕部を各一回突き刺した後、原判示鶴野和雄から取り上げられる迄数分間所持を継続したものと認められるからたとえ一時的にもせよ本件あいくちを自己の支配下においたものというべく、従ってそのさいの所持が時間にして僅々二、三分であり、所持して移動した距離が僅々五米であったにしても被告人はその間右あいくちを所持したものと認むべきである。

よって右と所見を異にし所持罪は成立しないとした原判決は右法条の解釈適用を誤った違法があり、右所持は原判示殺人罪と併合罪の関係において起訴せられ一個の刑を以て処断するを相当とする関係にあると認められるから、右誤りは原判決に影響を及ぼすものであることが明らかであるから到底破棄を免れない。よって刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し同法四〇〇条但書により更に判決することとする。

(罪となるべき事実)

原判決確定の罪となるべき事実の外、被告人は法定の除外事由がないのに昭和四一年三月一七日午後一〇時五〇分頃和歌山市友田町五丁目一五番地釣堀店びわこ入口付近において刃渡り一七糎のあいくち一振(昭和四一年押四一一号の一)を所持していたものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(法令の適用)

被告人の判示所為中殺人の点は刑法一九九条に、あいくち所持の点は、銃砲刀剣類所持等取締法三一条の三、一号、三条一号に該るから、前者については有期懲役刑を、後者については懲役刑を選び、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条、一〇条、一四条を適用し、重い殺人罪の刑に法定の加重をなしなお被告人は少年であるから少年法五二条一項を適用し、情状については被告人が自首したことの外被告人並に弁護人がる述する点も充分参酌して被告人を懲役五年以上八年以下に処し、原審における未決勾留日数中四〇日を刑法二一条により本刑に算入し、押収してあるあいくち一振(昭和四一年押四一一号の一)は判示殺人の供用物件で何人の所有をも許さないものであるから同法一九条一項二号、二項によりこれを没収し、原審並に当審の訴訟費用の負担について刑事訴訟法一八一条一項但書によりこれを被告人に負担させないこととして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 畠山成伸 裁判官 柳田俊雄 大政正一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例